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3.6といった点数はとても高いのですが、3.6の学生を選んで3.4の学生を落としてしまう。もしかしたら、落としてしまった人のほうがもっと優秀な、あるいはもっと思いやりのあるいい医師になる素質をもっているかもしれない。しかしそれはわかりようがないのです。知的能力とか知能は測ることはできるのですが、その人がどれだけ思いやりのある人道的な人かは測りようがありません。いままでそういった人道主義的な素質の試験を試みた人は大勢いるのですが、みんな失敗しています。面接で評価しようとしても、あまり信頼性のある結果は出ません。
それからもう1つ自問自答しているのは、22歳で人道主義者のように見える学生がはたして40歳になったときに同じような素質をもち続けられるだろうか、また逆に、22歳の時に優しくないと思われた学生が、もしかしたら10年後にはとても優しくなるということがあるかもしれません。ですから、自分の模範になるような、つまり自分が尊敬している人のようになりたいという人道主義者としてのロールモデルを学生に教えて、そういう人たちに触れる機会を与えるのがいちばんいいのではないかと思います。私の若い頃は英雄(ヒーロー)という言葉を使っていました。私は、ロールモデルというより、自分にとってのヒーローという言葉のほうが好きです。
学生は臨床研修の課題の中で、自分の先輩とか周りの人たちから学んでいくわけです。そのときに医学生自身が人間らしく人道主義的に扱われるということが大切だと思います。医学部の学生が言葉でののしられたり、あるいは精神的な虐待を受けるような目にあわないように、また働きすぎにならないようにすべきだと思います。人間らしい扱いを受けなかった学生は医師になっても人道主義的な医師にはならないことが多いと思います。また、カリキュラムの中では倫理、医学史、そして人文科学などが考えられなければなりません。それも選択課目ではなく必須課目として、とくに1年生に教えるべきだと思います。先ほどからヒューマニズムという言葉が使われていますが、それははたして何を意味しているのか定義してみますと、慈悲、理解、思いやりがあり、誠実で正直であるということ、他人への共感の気持ちをもつこと、穏健であり、他人の権利を尊重する人、そして正しくない行動はとらず、常に正しい道を進むこと、つまり人間愛というように私は考えていま丸ヒューマニズムというのは、人間のあらゆる活動においてその人間の価値観を尊重することだと思います。

 

どのような医師に育て上げるか

植村 ありがとうございました。次にKastem−baum先生にお願いします。
R.Kastenbaumゴールデン先生と同じような話をしようと企んだわけではないのですが、結果的には同じ話になってしまいます。そこでさらに細かい点について私の意見を加えたいと思います。
学生を選ぶさいに常に悩むのは私たちも同じです。頭のいい人、健全な人生観の人、成績のいい人といろいろな人がいますが、どういう学生を選んで医学部や看護学部に入れるべきなのかを考えるさいには、その人の能力はもちろん測らなければいけないとは思います。最近のハワード・ガードナーの研究では、一種の知能指数を測るような試験を編み出したのですが、ただ彼がいうには、人にはいろいろな種類の知能があって、たとえば数学に長けている人、言語に長けている人、芸術の才能のある人などいろいろな才能の持ち主がいます。そして社会的・社交的才能をもっている人、人間関係において優れた知能を発揮する人、あるいは状況や現状に合わせて臨機応変に反応する能力をもっている人、それも一種の才能だということがわかってきました。
また、学生を教育するさいには、アメリカでは教授がどうすれば喜ぶからそれをしようとか、こうすればいい成績がとれるからこうするとか、これは選択科目だからとらなくてもいい、これは勉強しておいたほうが最終的には役に立つとか、た

 

 

 

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